
瀬戸内海の養殖カキが危機にひんしている。三津湾に面する東広島市安芸津町の安芸津産のカキも例外ではない。安芸津町でカキを養殖する森尾水産代表の森尾龍也さんと、広島県料理業生活衛生同業組合 副理事長・県中央支部長で、安芸津町で飲食店を営む藤田寛治さんに思いを聞いた。

安芸津のカキの歴史
森尾 安芸津町のカキ養殖は、1960年代から行われるようになりました。干潟が多かったことを背景に、カキの食文化が広がっていきました。ピークのときには、50件の養殖業者がいましたが、後継者不足を背景に、現在は4分の1の15件に減っています。
安芸津のカキの特徴
森尾 安芸津の三津湾は、他の海と比べると塩分濃度が高くミネラルが豊富な海水として知られています。そのため、身に弾力があり、濃厚な味わいが特徴です。海に流れる河川が少ないことから、菌が少なく、生食もできます。
藤田 広島湾で養殖されたカキを蒸して食すと、ときどき水っぽく感じることがありますが、安芸津産のカキには、それがありません。広島から来店された人には、「ちゃんとしたカキの味がする」と言われることが多く、そのくらい違うと思います。
食べ方は蒸しカキがおススメです。蒸し汁と一緒に食べるとおいしさも倍増します。ポン酢など調味料が不要で、そのままでおいしく食べられるのが安芸津産のカキの特長です。
被害の現状

森尾 ほぼ全滅に近い状況です。95%以上のカキが生きていません。水揚げをすると、カキの口が開き、身が溶けて何も入っていない状態です。昨年10月から急激に悪化しました。今シーズンは大豊作になると期待していただけに、落差が大きいです。
藤田 うちでは、むき身と殻付きの両方を扱っています。むき身については、安芸津産は仕入れが不可能で、広島の市場から仕入れています。殻付きは、これまでの取引業者にお願いし、在庫がなくなるまで使う予定です。
市場経由の仕入れ価格は、地元の養殖業者から直接仕入れていたときと比べ、高くなります。ただ、お客さまには据え置きの値段で料理を提供するようにしています。
大量死の原因
森尾 原因は一つや二つではなく、複合的に絡み合っていると思っています。地球温暖化による高水温や、降雨量が少なかったことによる高塩分などが指摘されていますが、仮に水温が原因であるとすれば、今回、水温が下がっても、へい死が続いている状態を、うまく説明することができません。
専門家は、海底に溜まったヘドロから発生する硫化水素で海中の酸素が奪われる「貧酸素」状態が原因であると指摘しています。そのことが原因であれば、他の魚介類も死ぬはずですが、三津湾で獲れる真珠貝やムール貝には影響がありません。
藤田 行政の施策で瀬戸内海の環境が変わったこと、つまり海がきれいになりすぎて、エサとなるプランクトンの状態が変化したことが、(へい死の)要因の一つだと思っています。
安芸津町では、2018年の西日本豪雨のとき、多くの家庭が水に浸かりました。下水道が整備されていない家庭も多く、大量の生活排水が海に流れました。ただ、その年のカキは豊漁で、たくさんのおいしいカキが獲れました。私が子どものころの三津湾は、漁場が豊かでハゼならエサを付けなくても釣れるほど、よく魚が釣れました。今は何も釣れません。
森尾 近年、獲れるカキはきれいです。水揚げをすると、昔はカキの周りに、さまざまな動植物がついて付着していましたが、今はフジツボだけです。
藤田 三津湾には、安芸津町の特産だったエビもいませんね。エビ漕ぎ漁を行う、エビ専門の漁師も大半が辞められました。現在、安芸津町では、カキの養殖業者を除いて、漁業で生計を立てている漁師さんは、ほんとど、いないでしょう。
今後、行政(国・県・市)に求めること
森尾 広島のカキは、他県に養殖用の種を供給する役割を担っています。広島で種がとれなくなれば、他県の養殖も成り立たなくなります。このことは何としても守らなければなりません。
私たち養殖業者は、贅沢をしているわけではなく、後継者不足の中で、若い人が目を向けてくれるよう、持続可能な設備投資をしながら、なんとか続けている状況です。突発的な不作に備えて蓄えられるほど余裕はありません。
生きている5%を売ったとしても、売り上げは、前年度の10分の1程度にしかなりません。そう考えると、前年度売り上げの8割程度の借り入れがないと、会社が回りません。1年~2年を乗り越えられるだけの、資金繰りのための支援を、行政にはお願いしたい、と思っています。
藤田 飲食業界では、コロナ禍のとき、借りられるだけ借りることができましたが、返済が重くのしかかり、倒産件数が増えました。ありえない金額を貸してもらえたことはうれしかったのですが、その分、返さないといけません。利益率が低い飲食店には、大きなリスクになりました。
カキ業界には、同じ道を歩んでほしくありません。コロナ禍のとき以上の手厚い支援が必要です。安芸津町のカキは、市のふるさと納税の返礼品ランキングで1位になるほどの、東広島の名産です。守らなければいけませんし、守ってほしいと思っています。
森尾 広島県の被害総額は約300億円規模と出ていましたが、養殖業者や仲買業者への影響をはじき出した数字。飲食店や加工業者まで含めると、被害額は、300億円の倍になるのではと思っています。安芸津町のカキは、地域の産業。一刻も早い原因究明と、実効性のある支援が求められます。
国・県・東広島市の主な支援策



(聞き手・構成 日川)
プレスネット編集部









