林業を営む下永速さんが、子どもたちの木育に力を入れてきたことが評価され、このほど県知事表彰を受けた。「みんなが助けてくれたおかげで頂けた賞」と感謝の心を忘れない。(小林)
短大を卒業後、山の木を伐採して材木にする“山師”になって45年。製材所や工務店も営んできた。下永さんの木材は、建築資材だけでなく、市内小売店舗のイベント用装飾や、東京の六本木ヒルズでディスプレイに使われたこともあるという。1999年には、木工品店「きこりや」を開店し、地元産にこだわった木工品をはじめ、市内外の木工作家の作品を販売している。時を同じくして、木工教室を主宰したり、学校の講師を務めたりしながら、子どもたちの木育に力を注ぐようになった。
「山は手入れをしないと壊れていく。私たち山師は、衰退した山々を再生する仕事を山からもらっている」という信念を持つ。核家族化の進展で、先祖代々続く国産の木造家屋は維持されなくなり、新築住宅には安い輸入木材が多く使われるようになった。国産木材の利用が減少していることを危惧する一方で「大手ハウスメーカーは、国産木材に再注目している。国産木材にもう一度目が向けられる日がきっと来ると信じている」と話す。
「かつて、家業を継ぐことが当たり前だった時代には、子は親の背中を見て仕事を覚え、心構えを学んできた。だから私も、子どもたちに木と触れ合ってもらうことで山師の良さを伝えている」。山や木に少しでも興味を持ってもらい、林業を志す人が増えてほしい。その思いで木育を続けるという。
「林業はいい仕事。山が木材を提供してくれて、残った端材も需要がある。常に森林浴をしているせいか、山師の寿命は長いとも聞いたことがある」と目を細める。現在、ヒノキのパンなど「木を食べる」ことも研究している。山や木材への探求が尽きることはない。
下永さんが行う「木育」とは…
1999年から、「きこりや」で木工教室をはじめた下永速さん。
まだ「木育」という言葉もありませんでした。その後、小中学校の授業で講師を務めるようになりました。子どもたちに木の文化への理解を深めてもらうため、自身の経験や山に関することを話し、木工体験としてブックスタンド作りなどを教えています。
ときには市外の保育園・幼稚園からも声がかかります。
未就学児を対象にした木工教室は、土を掘ったり、釘を打ったりと簡単な作業です。
しかし、そのような機会すら減っている子どもたちには、貴重な体験です。
地元産にこだわった「きこりや」の木工品は、保育園・幼稚園への寄贈品に選ばれることもあります。
木の温もりがあふれる子ども用キッチンセットや、自然の枝の形を生かした小さな椅子などは、子どもたちにはきっと人気の遊び道具となっていることでしょう。
「人間も動物だから、体を動かして働くのが本来の姿」と、まだまだ現役の下永さん。
『山師になりたい』と弟子入りを申し出る人も少なくありません。
中には、かつて下永さんの木育授業を受けた人が、弟子を希望する例もあるそうです。
木工教育だけでなく、弟子の育成にも力を注ぎます。