東広島市の全市立中学校15校が、今年度から生徒の部活動(以下部活)への参加を自由にする、任意加入制にかじを切った。文科省が部活を学校から地域に移行させる方針を打ち出すなど、学校での部活の在り方が問われている中、部活の意義や部活のこれからを探った。(日川)
部活は教育の一環
そもそも、学習指導要領では、部活は教育課程外とされ、「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」と明記してある。一方で、「教育課程との関連が図られるよう留意するもの」との文言もある。
こうした部活の曖昧な位置付けを背景に、東広島市内の市立中学校では、一部の中学校を除いて、これまで、部活への参加を全ての生徒に求める「全員加入制」が伝統として根付いていた。部活を「教育の一環」として捉え、全員加入制を後押ししていたのだ。
それでも、今回、東広島の市立中学校が任意制にかじを切ったのは、部活が多様化する子どもたちのニーズに応えられなくなってきているからだ。小学校でサッカーやバスケットボールを経験しても、グラウンドが手狭だったり、少子化で生徒数が減ったりしている中学校では、部の数が制限され、希望する部に入れない―。校外の民間スポーツクラブや、塾に通っている生徒は、それらの活動・時間に支障をきたす―。このように、全員加入制のままでは、意に沿わぬ活動を強いられる生徒が出てしまうため、今回の任意加入制になったのだ。
生徒の94%が加入
では、任意加入制になった今年度、生徒の部活への加入状況はどうなったのか。市教委のまとめによると、生徒の94・4%が部活に加入(6月16日現在)。うち運動部には69%、文化部には31%が加入していた。
高い加入率になったことについて、市立中学校校長会会長で、市立向陽中の植田昌広校長は「部活は中学校生活の柱。生徒が部活の良さを理解している結果が数字になって表れたと思っている」と話す。
生徒たちの声を拾ってみても、おおむね部活には好意的だった。民間の硬式野球クラブに加入している中2の男子生徒は、部活では文化部に所属。「部活には、クラブチームとは違った楽しさがある。同じ学校の仲間と過ごす時間は宝になる」。希望する部がなかったため、ソフトテニス部に入った中1の男子生徒は「家に帰ってもすることがない。だったら部活をやった方がいいかなと。先輩からも部活の良さを聞いていたし」と話す。
割れる保護者の声
一方で、プレスネットが、保護者に行ったアンケート調査では、「任意加入に賛成」が約5割で、「任意加入に反対」の約3割を上回った。任意加入に賛成の意見では、「部活と勉強の両立は難しい」「部活以外で打ち込めることがあるのなら無理に部活に所属する必要はない」といった声が目立った。任意加入に反対の意見では、「部活には、子どもにとって学ぶべきことが多い」という声が多くを占めた。
市議会で子どもたちを取り巻く問題について追究している鈴木英士市議は「任意加入で子どもたちの選択肢が広がる。本当にやりたいスポーツや文化活動にいそしめる環境をつくることは大切」としながらも、自身が部活(ソフトテニス)で全国大会に出場した経験を踏まえ、「礼儀など部活で学んだことは、社会に出て役立っている」と部活の良さも強調。「(部活加入の有無は)親の思いよりも、子どもの思いが反映された選択であってほしい」と提案する。
地域移行は課題山積
文科省では、少子化や、部活の全員顧問などに伴う教員の過重労働などを背景に、部活を学校から地域に移行させる方針を打ち出している。来年度からは、休日の部活を段階的に地域に移行し、学校単位で参加する中体連の大会にも、民間のスポーツクラブが出場できるようになる。今回の市立中学校の任意加入制も、文科省の意向を踏まえての措置といえよう。
ただ、部活の地域移行への課題は多い。運動部の顧問を長年務めてきた市内の元中学教諭は「学校だから可能だった、指導者や施設の確保をどうするのか。実現へのハードルは高い」と指摘。別の元中学教諭は、部活が学校から離れることに、「民間のクラブでは、子どもを教育するという側面がおろそかになり、勝利至上主義に陥るのではないか」と危惧する。前述の植田校長は、部活の顧問に触れ、「若い先生は部活で指導力が身に付き、それが授業に生かされるようになる。部活が先生のレベルアップに貢献していることも忘れてはならない」と強調する。
これまで、学校生活で大きな位置付けを占めていた部活。大きな転換期を迎えているのは間違いないが、先行きは不透明だ。