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農業通じ地域活動 子どもが成長できる場に ひろしま農育プロジェクト 代表 阿知波 康祐さん

  • 2022/08/09

 「農業を通して地域をつくり、人をつくり、仲間をつくる」を理念に掲げるひろしま農育プロジェクト。設立以来の目標だった一般社団法人化を、2021年12月に達成した。代表は阿知波康祐さん。大学生メンバーを中心に、地域の農業を守り、子どもたちを育む活動を続けている。(小林)

阿知波さん
プロフィール
あちわ・こうすけ 1997年生まれ。兵庫県神戸市出身。一般社団法人ひろしま農育プロジェクト代表。近畿大学工学部2年のときに、現理事の川口泰伸さんとともに任意団体として「ひろしま農育プロジェクト」を設立。大学卒業後は建設会社に勤務するが、一般社団法人化に伴い2022年3月に退職した。

 近畿大学工学部で、プログラミング授業などのIT教育を研究していた阿知波康祐さんは、プログラミング的思考を身に付けるために自然の中での活動や農業が有効だと気付いた。種をまいて水をやって、芽が出て育って花が咲いて実がなる。その過程には天候や土の状態などさまざまな事象が影響して、同じ工程を踏んでも結果は同じにならない。

 「プログラミングでも、予期せず発生するバグに対応する力が求められる。小さな問題に対処する能力が磨かれる点で、農業や自然体験ととても似ている」。

 同法人の理事で、農業に関わる仕事もする川口泰伸さんとは、学生と社会人が参加するサッカーサークルで出会った。川口さんは、近所の担い手のいなくなった田畑が荒れていく様子を見て、寂しく思っていた。農業を守ることは、地域の自然を守ることにつながると考えた川口さんと、阿知波さんの思いとが重なり、「ひろしま農育プロジェクト」が立ち上がった。

 活動の拠点は、農業を続けられなくなった所有者から借りている農地。毎年、近隣の小学校や留学生の農業体験学習を受け入れている。また、市場に出ず廃棄される野菜と貧困のため食料に困る世帯をつなぐ「農育ぶちうま宅食便」や、新しい名産品づくりを目指す「焼き米プロジェクト」、小学生から大学生まで参加できる「農育ブートキャンプ」など、さまざまなアイデアを形にしている。

 「子どもたちが個性を生かして成長できる場所、いわば“自然学校”をつくること」が、今の阿知波さんの目標だ。

農業を通して地域をつくり、人をつくり、仲間をつくる。
ひろしま農育プロジェクトの活動

ひろしま農育プロジェクト
(提供写真)

 西条町吉行を中心に、農業を続けられなくなった所有者から借りた農地で活動する「一般社団法人ひろしま農育プロジェクト」。
 農業や自然に触れることで子どもたちの体と心を育み、地域の自然も守ることも目指す、その活動とは。

農業体験学習

 近隣の小学校で毎年行われる農業体験の授業を、ひろしま農育プロジェクトで受け入れている。
借りている田で、田植えや稲刈りなどを行う。

農業体験学習
(提供写真)

また、留学生にも同様に、農業や餅つきの体験を提供している。

農育ぶちうま宅食便

形や色が悪い、少し傷があるなど、十分食べられるにも関わらず市場に出せない野菜たち。
この野菜をどうにかしようと考えていたとき、貧困家庭の問題を知った。
市役所の窓口やこども食堂に行くこともできず、食べるものに困っている人が市内にもいることを知り、「農育ぶちうま宅食便」をスタート。

 企業などが行うフードドライブ事業で集まった食品も合わせて、これまでのべ200世帯、子どもの数にして500人に食品を届けてきた。

焼き米プロジェクト

ひろしま農育プロジェクトで活動する中心メンバーの多くは大学生だ。
大学生にとって魅力ある活動にするため、新たな特産品づくりも始まっている。
着目したのは、かつては全国各地で作られていた「焼き米」。

焼き米プロジェクト1
(提供写真)

籾のまま浸水してから炒って作る加工食品だ。
食べるときは熱湯やスープなどに入れてふやかす。
香ばしく焼いた餅のような風味で、スープに入れるとぷちぷちとした食感が楽しい。

焼き米プロジェクト2
(提供写真)

 プロジェクトリーダーの渡邉夏未さんを中心に昨年1月から開発をスタートし、1年半をかけてようやく形になってきた。
 しかし商品化に至るには、もう一歩。
 「今は15分ほど熱湯に浸けないといけない。もっと短時間で食べられるように、米をつぶして作れるように試行錯誤中」と渡邉さん。

渡邉夏未さん
渡邉夏未さん

聞きなじみのない「焼き米」を手に取ってもらうため、デザインも工夫する。
「自分が卒業するまでには商品化したい」来年3月までが目標だ。

農育ブートキャンプ

 「農育ぶちうま宅食便」で困っている家庭とふれあううちに、「子どもたちにもっと“経験”をさせてあげたい」という思いがメンバーに芽生えた。
 そして宅食便では届けられない「経験」を得られる場所としてスタートしたのが、「農育ブートキャンプ」だ。
 プロジェクトリーダーは、この春社会人になったばかりの山下拓海さん。

山下拓海さん
山下拓海さん

 ブートキャンプは高校生・大学生の部と、小学生・中学生の部、それぞれ月2回。
 現在、大学生が約10人、小学生と保護者が約5組参加している。
 山下さんが企画する1年分のプログラムは、台から作るそうめん流しやデイキャンプなど、野菜作りにとどまらない。

そうめん流し
(提供写真)

 企画する上で大切にしたのは「何かひとつでも学びがあること。子どもたちが自ら考えて、学びの場になったらうれしい」。
 活動を通して、集団の中での自分の役割や、得意なこと・苦手なことなど自分の個性を見つけられるようなプログラムを企画している。

農業を通して、体も心も育む「ひろしま農育プロジェクト」では、体験希望や、企画・運営の参加者を随時募集している。

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