大嶋憲人（おおしま・けんと）さん（29）は、産地コーディネーターとして農家と消費者をつなぐ架け橋をしている。愛称は「レモ兄（れもにい）」。黄色の軽バンに乗り、レモン型の帽子と黄色のつなぎ姿で、広島県産レモンの魅力を全国に発信している。「人生をかけて、食や農業を支援していきたい」。その姿勢に、地域の人々の信頼が集まっている。（山北）
きっかけ
高校１年生の時、コンビニエンスストアで買ったうどんのゼラチン状のスープを、レンジで温めるとつややかに溶けて、おいしそうに変化した。その瞬間、「食の世界ってすごい！」と感動した、という。大学では農学部に進学し、卒業後は食品メーカーに就職。農家へのインタビュー動画を制作する仕事に携わり、地方と関わる機会が多かった。そんな中で出会ったのが、大崎上島町を拠点に農作物の販路拡大などに取り組む会社「アンドピリオド」の社長だった。「一緒に仕事をしないか」と誘われ、自分の経験と力を生かせると考えて転職を決意。学生の頃から食や農業に情熱を持っていたことを知っていた両親も、背中を押してくれたという。
東広島市に移住
広島県内を車中泊しながら2カ月かけて巡り、農家約100件の生産者の思いに耳を傾け移住場所を探した。その中で、東広島市が広島県のほぼ中心に位置し、広島市での活動にも便利。一次産業で育てられている品目の幅が広く、多様な農家と関われる点に魅力を感じた。市内に大学があり学生との連携もしやすいことから、2024年6月、東京都から東広島市へ移住した。
活動内容
生産者と消費者をつなぐことを目的に、生産者から農産物を直に仕入れ、インターネットや露店で販売する事業を実施。2025年2月からは同社の自主企画イベント「ひろしま青空レストラン」をスタート。地元農家の畑に地元シェフを招き、牡蠣やレモン、ジビエ、夏野菜などをテーマにした料理を作り、その中で食材の販売も行う。イベントの様子は動画で発信。学生たちも参加している。同レストランはこれまでに4回開催した。
取引のある東広島市内の生産者は現在約30件。飲食店にも利用促進を働きかけ、現在、県内の約50店舗に卸している。
おすすめの東広島のおいしい食材
印象に残ったのは「安芸津ジャガイモ」。ほくほくしっとりとした食感で煮崩れしにくい。ジビエのシカやイノシシ肉も臭みがなく、うま味が濃い。「こい地鶏」も噛むほど味わい深く、お気に入りだ。
レモンへの熱い思い
レモンといえば“酸っぱい”というイメージだったが、採れたてのレモンをかじると、まろやかな酸味と豊かな香りに驚いた。その感動をきっかけに、「もっと多くの人に広島レモンを知ってほしい」という純粋な思いが芽生えた。広島県は、国産レモン生産量の約50㌫を占める日本一の産地だが、「広島レモン」としての知名度はまだ低く「広島レモンは、もっと伸びる可能性がある」と、レモンのPRや露店販売の他、料理家と協力してレモン料理メニューの開発、SNSでの情報発信など、レモンへの関心を高める活動に力を入れ、「産地直送で、よりおいしいレモンを広げていきたい」と意気込む。
おすすめのグリーンレモンの食べ方
グリーンレモンは、和風料理によく合う。輪切りを鍋やうどんに添えると爽やかなレモンの香りが楽しめる。
おすすめは、塩ラーメンに輪切りのグリーンレモンをトッピング。また、肉と野菜を炒めて、最後にスライスしたグリーンレモンを入れて少し炒めるとほどよい酸味が料理を引き立てるという。
産地コーディネーターの活動
地域の生産者と直接つながり、信頼関係を築きながら新鮮な食材を仕入れ消費者へ最短で届ける。その場で農産物を買い取って、インターネット販売や飲食店への納品、市内や広島市中心部の商店街での露店販売など、販売が苦手な農家をサポート。「販売が得意でない農家の“武器”になれれば」と話す。
さらに、各地域で活動する産地コーディネーターの人材育成の取り組みも進めている。自身はその第1号として、東広島を舞台に個人事業主として活動中だ。
今後の目標
農業で稼げる仕組みをつくり、消費者が農家のファンとなり、「この地域で農業をやってみたい」と思える情報を発信し橋渡しをすることを目指す。さらに、東広島市の魅力ある食材を市外に広め、市外の人から評価され、市民も市に誇りを持てる流れをつくりたいと考えている。現実は厳しいが、中山間地域の小規模農家でも続けられる新しい仕組みをつくり、空き家を住宅や倉庫に活用するなど、経費を抑えながら根付く農業の形を模索している。「産地コーディネーターが増え、営業やSNS発信などを通してワンチームで一次産業を盛り上げていけたら」と力を込める。
【プロフィル】
1995年東京都生まれ。明治大学農学部卒。2024年4月からアンドピリオド常務取締役兼産地統括マネージャー。個人事業主。野菜ソムリエ。
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