東広島市の高垣広徳市長(71)が、来年2月1日に投開票される東広島市長選に3選を目指して立候補すると、9月11日の市議会本会議で正式に表明した。市長選を前に、高垣市長が2期目で掲げた選挙公約について、実現度を高垣市政に詳しい3人に総括してもらった。(日川)
[審査した人]
A氏:現職市議
B氏:現職職員
C氏:街づくりに詳しい市民
[評価基準]
■ すでにできている
■ 現在進行形
■ 計画段階
■ 実施されていない
■ 評価外
高垣市長が掲げた六つの公約
①命と暮らしを守る体制整備
▽災害死ゼロを目指した防災対策
A氏 現在進行形
B氏 すでにできている
C氏 現在進行形
▽感染症を踏まえた医療体制の整備
A氏 現在進行形
B氏 現在進行形
C氏 現在進行形
②仕事と生活価値を創造する基盤づくり
▽Hi-Bizの強化による中小企業者の活性化
A氏 現在進行形
B氏 すでにできている
C氏 現在進行形
▽成長産業が集まり、新たな企業立地と投資の促進
A氏 すでにできている
B氏 すでにできている
C氏 すでにできている
▽農業の生産性向上と観光の融合による豊かな農村生活の実現
A氏 実施されていない
B氏 現在進行形
C氏 実施されていない
③誰ひとり取り残さない多様性と調和社会の実現
▽安心して子どもを産み育てられるまちづくり
A氏 現在進行形
B氏 現在進行形
C氏 現在進行形
▽次の時代を見据えた地域共生社会の実現
A氏 現在進行形
B氏 現在進行形
C氏 現在進行形
▽国際色豊かなまちの形成
A氏 すでにできている
B氏 すでにできている
C氏 すでにできている
④多彩な地域の特徴を生かしたまちづくり
▽地域別計画の推進による地域の誇りの創出
A氏 計画段階
B氏 すでにできている
C氏 現在進行形
▽希望ある未来へ挑戦するプロジェクトの展開
(Town&Gown、スマートシティ構想、生活デザイン・工学研究所構想)
A氏 現在進行形
B氏 現在進行形
C氏 現在進行形
⑤時代を担う子どもを育てる教育・保育の推進
▽学校支援センター、子どもの育ち未来プロジェクトの創設
A氏 実施されていない
B氏 すでにできている
C氏 計画段階
▽個別最適な学びとGIGAスクールの発展
A氏 現在進行形
B氏 すでにできている
C氏 現在進行形
⑥持続可能な次世代環境都市の構築
▽脱炭素化の推進
A氏 現在進行形
B氏 すでにできている
C氏 現在進行形
▽豊かな自然環境の保全と活用
A氏 現在進行形
B氏 現在進行形
C氏 現在進行形
▽ごみの減量化プロジェクトの推進
A氏 現在進行形
B氏 現在進行形
C氏 現在進行形
総評 A氏
市長2期目は、国や県との連携による新たな企業立地や投資促進、大学・民間企業とのTown&Gown構想、スマートシティ構想など未来を見据えた体制整備に力を注いだ期間であったと評価できる。一方で、目の前の課題にもしっかり向き合っていただきたい旨の市民からの不安のお声も日々耳にする。人口減少地域への取り組みや第一次産業への予算増、時代と実情に即した教育のあり方などについては、強化が求められる。
総評 B氏
いずれの公約も着実に進んでいると感じる。どの公約もここで終わりというものではないので、進展により色分けした。いずれの公約も実現にはそれなりの時間が必要なため、施策効果を見極めながら事業を進めている。そのため、市民には実感しにくいのかもしれない。一方、市長は幅広い市政をカバーするために多くの施策を展開するので、職員にも長期的視点と複眼的思考力が一層求められる。
総評 C氏
東広島市は、まだまだ福祉の「見える化」ができておらず、福祉のつながりが薄い傾向にある。このため、CSW(コミュニティソーシャルワーカー)の増加を図り、地域密着の福祉を実践している事業所や専門職を、広く市民に認知する必要がある。また、地域共生社会の実現に向けては、その活動をより分かりやすく市民に広め、次世代を担う若者を巻き込みながら、市民と一緒に取りくむことが大切だ。
AIが分析 高垣市長が力を入れた言葉
2022年~2025年の2月定例会の所信表明から

解説
高垣広徳市長が、年度当初の予算案を審議する2022年~25年までの2月定例会の所信表明で使った言葉を人工知能(AI)で分析。強調された言葉は大きな文字で表示した。「大学連携」「半導体関連産業」「ウェルビーイング」など、高垣市長が選挙公約で掲げた施策の具体例を表した言葉が目立った。高垣市長のブレない姿勢が浮かび上がった。
高垣市政の評価と要望
来年2月で2期目の任期満了を迎える東広島市の高垣広徳市長が、3期目を目指して立候補を表明した。4氏に、それぞれの立場で、高垣市政の2期目を評価してもらい、評価を踏まえての要望を聞いた(順不同)。(日川)
東広島商議所副会頭 石井裕一郎氏

部局横断型の組織体制を評価
重伝建は三位一体で推進を
■評価
▽2期目はコロナ禍からの回復期で、市内飲食店や中小事業者の支援など、さまざまな経済対策に取り組んだことと、マイクロンの5000億円投資の後押しや市営産業団地の整備など、半導体関連企業への支援の道筋を付けたこと。
▽観光コンテンツ作りに取り組むディスカバー東広島と共に、観光戦略の柱のひとつに酒蔵を掲げ、酒蔵通りの活性化や観光振興に力を入れたこと。日本酒の伝統的酒造り技術がユネスコの「無形文化遺産」に登録されたことも観光に生かそうと取り組んでいる。
▽まちづくりと観光、文化財に関わる組織の縦割りは長年の行政課題の一つだった。今春、部局横断型の組織にしたことは評価したい。市の観光戦略は、組織が一体となって知恵を出さないと施策が前に進まない。組織体制がワンランク上がり、これからが大切になる。
■要望
▽西条の酒蔵通りは、JR西条駅の近くにあり、人や車の流れが多く、その中に酒蔵(建物)が建つ地域。このため、国の重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)指定を目指すのなら、文化財保存と住んでいる人のことを考えたまちづくり、産業振興が三位一体で議論されなければならない。東広島ならではの特別な合意形成が必要だ。
将来の東広島を担う子どもたちに、「こんなまちがいいな」という未来の酒蔵通りの絵を描いてもらい、議論の第一歩にするのもいい。
▽東広島に多い若者や外国人市民と共生できる施策を。ワークショップなどで広島大生と話をするが、驚くのは、行動範囲が下見地区中心ということ。学園都市でありながら、若者と市の玄関口にある酒蔵通りが結び付かないのは寂しい。
インバウンドも増えているが、ビーガンメニューのある店舗はわずか。外国人居住率が高く、イスラム教徒の外国人市民も増えている。多国籍・多宗教に即応した体制作りが急がれる。
東広島市議 重森佳代子氏

企業の2兆円投資を評価
成果は、市民に返すべき
■評価
▽豪雨災害やコロナ感染といった危機に対し、市のトップとして力強く取り組んだ姿は、多くの市民の記憶に残っている。
▽高垣市長の説明は論理的で説得力がある。一方、市長と対等である議会は、さらにチェック機能を果たすべきだと自覚している。
▽子育て世代の増加は東広島市の強み。子育て支援センターの全域整備や、こども医療費助成の拡大などは、市民の安心につながっている。小児科・産婦人科が増えれば、さらに心強い。
▽4年前新設された地域振興部により、地域の特性や住民の声を生かす仕組みが整った。
▽国策として進められているマイクロンメモリジャパン(東広島市吉川工業団地)の総額約2兆円の投資は、地域経済にとって大きな追い風。市長が直接アメリカ本社を訪問し、意見交換をされた積極的な姿勢も評価されている。
■要望
▽「成果は、市民に返す」―物価高騰と少子高齢化が同時進行する厳しい現状だからこそ、東広島市の成果は、市民の暮らしを豊かにする施策で還元すべきでは。
▽来年度から国が予定する小学校給食費の無償化に合わせ、市の施策として中学校も同時に無償化すべき。年間で約3億円かかるが、家計と同じように「やりくり」すれば十分に実現できると考える。
▽地域課題の解決には、現場のアイデアを施策につなげていくことが大切。例えば、シカやイノシシを効率的に捕獲、ジビエ(食肉)として処理・加工・販売までつなげ、産業として生かせれば、農業を守るだけではなく、新たな雇用が生まれ地域も元気になる。
▽企業が集積すれば交通渋滞は深刻になる。市長の道路行政の手腕を発揮して、慢性的な渋滞解消への早期対応をお願いしたい。
▽市民からは「市長の話はカタカナが多くて、分からん」という声をよく聞く。やさしい言葉で説明してもらえれば、市民にも伝わりやすくなるのではないか。
子育てネットゆめもくば理事長 村若 尚氏

子育て施策の充実を評価
西条独創教育の改革を
■評価
▽妊娠期から子育て期まで切れ目なく支援する「東広島版ネウボラ」の拠点「地域すくすくサポート」が市内12カ所に整備されたことと、子育て中の親子が気軽に集まり、悩みを相談できる子育て支援センターが市内30カ所に増えたこと。どちらも利用者が大幅に増えていて、ニーズに対応している。
▽24時間365日いつでも使えるチャット相談が開設されたこと。引きこもりの児童・生徒は増えている中、心にかかえている悩みや気持ちを、無料で話せる窓口ができたことは大きい。
▽出産後に育児休暇を取ると、保育所に通う上の子どもが退所させられる「育休退園制度」が、今年度末で廃止になること。子育て世帯からは、制度の見直しを求める声が強かった。保護者には、出産後も上の子どもを保育所に預けられる安心感が生まれた。
■要望
▽子どもの自主性を尊重する西条独創教育を継承しているが、戦前の古い制度には疲れが見える。欧米のように、子ども一人ひとりの「やりたいこと」に、先生が寄り添い、子どもの能力を伸ばす教育に改革してほしい。東広島には小規模校も多く、実験的な教育は可能だ。
▽東広島では小児科医と産科医が不足しており、充実は不可欠。小児科の受診予約が取れない、夜間や救急当番は待ち時間が長いというのが現状だ。このため、保護者には♯8000番で対応できるよう周知を図っている。
▽希望の保育園に入園できないのに、待機児童としてカウントされない「隠れ待機児童」はまだまだ多い。子育て世帯の居住空間を分散化させるのが解決策として考えられる。例えば、中心市街地から離れた地域に家を購入した新婚家庭には給付金を支給するなど、施策を考えてほしい。もう一つ、隠れ待機児童を解消するには、保育士の確保は不可欠になる。
前日本酒造青年協議会長 前垣壽宏氏

「Town&Gown」の取り組みを評価
飲酒年齢は19歳の特区に
■評価
▽市内の大学の知見と市の行政データなどを活用して地域課題を解決したり、新技術を地域に実装したりする「Town & Gown(タウンアンドガウン)」構想は、その名前はともかく、大学が地域との一体感を高めようとする意識が感じられ評価できる。
構想は緒についたばかりだが確実に実行され、成果が見えるようになれば、名前も魅力的に感じられるだろう。
▽日経が全国の市区を対象に調査したSDGs(持続可能な開発目標)で、東広島市が中四国の自治体で1位になったこと。市のスタートアップ企業の支援や、外国人向けの行政サービス、環境への取り組みなどが評価されたのだろう。
SDGsは国連が推奨し、持続可能な社会の発展に欠かせない考え方や行動。ブームは落ち着いているのかもしれないが、一時的な流行ではなく、継続的な取り組みにしてほしい。
■要望
▽西条の酒蔵通りは、国の重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)指定に向けて準備を進めているが、重伝建に指定される地域の多くは、人口減少で衰退し、町や建物を丸ごと保存するケースが多い。
酒蔵通り地区は、JR西条駅前という市の玄関口にあるため、衰退から建物を保護するのではなく、開発から保護するという珍しい事例。神戸市の北野異人館街などの例を参考に、必要な建物を点で結び守る工夫が必要だ。
▽東広島市には、多くの学生が住んでいるが、卒業後も東広島にとどまる学生は少ない。卒業後も、多くの学生が東広島市で就職し定住できるようなサポート(施策)をお願いしたい。
さらに、飲酒可能年齢を迎える学生には、酒どころで日本酒の魅力を知ってもらい、将来は海外で東広島の日本酒を自慢する人になってもらいたい。大胆な案かもしれないが、市在住者の飲酒年齢は、満19歳を迎える年度の4月からとする特区ができれば面白い。
記者の目
高垣広徳市長が、3選を目指して立候補することを表明した。今回、見開きで高垣市政の2期目を検証する特集を組んだねらいは二つある。
一つは、高垣市政の評価を紙面でしっかり伝えたかったから。今や、インターネット上には、偏った報道やフェイクニュースが広がり、それをもとに政治家を判断する危うい状況が生じている。結果として、市民が誤った情報を信じ、静岡県伊東市の田久保眞紀市長のような人を誕生させる可能性があるからだ。
もう一つは、高垣市政の客観的な評価を分析したかったから。一般紙の検証記事は、担当記者の主論をもとに組み立てられることが多く、どうしても感情や、そのときの状況に影響されやすい面がある。今回の紙面では高垣市政について意見を持つ7氏の率直な思いを、そのまま紹介した。
市長選まであと4カ月。現職以外の立候補の動きは流動的だが、市民には、市政のことを正しく知ったうえで投票行動につなげてほしい。

















