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(TUE)

東広島市の地方創生の要 Town&Gown(タウンアンドガウン)構想を分析 第1弾

  • 2025/01/20

 近年、「Town&Gown(タウン・アンド・ガウン)構想」(本文とアンケートはT&Gで表記)という言葉を、行政や大学関係者からよく耳にするようになった。市民への浸透は今一つだ。こうした中、石破茂首相は、地方創生推進を政策の柱に掲げ、東広島市のタウン・アンド・ガウンの取り組みはさらに加速する勢いだ。5年目を迎えるタウン・アンド・ガウンの光と課題を見詰めた。(取材班)

Town&Gown構想とは?

タウン(まち)とガウン(大学)が一体となってまちづくりに取り組むこと。

Town&Gown構想とは?

※米国のアリゾナ州立大学が立地するテンピ市がモデルになっている



 市と大学が連携してまちづくりをしていくT&G。市内に4大学(広島大学、近畿大学工学部、広島国際大学、エリザベト音楽大学)がある東広島市ならではの施策だ。
 学官、または産学官の取り組みはこれまでもあったが、部署間ではなく、組織同士が長期的に取り組む点が異なる。現在、3大学にタウン・アンド・ガウンオフィス(TGO)を設置。それぞれ、大学内に部屋を設けて市と大学の職員が一緒に働いている(広島大学は企業の社員も一緒)。取り組みの特徴は次項参照。
 自治体、大学、企業が手をつないでデジタル技術や知見を活用して、少子高齢化、地域経済の縮小などの課題を解決していく。
 一緒に取り組むメリットの一つが、横のつながりができ、さまざまな業種の人たちから多様な意見・アイデアが出て、新しい価値を生み出すイノベーションが生まれること。もう一つが、大学や地域をフィールドに実証実験を行い、社会実装まで迅速に進められること。自動運転・隊列走行BRTの実証実験もこの一環。将来性のある事業が積極的に行われるまちへの期待から、東広島への企業立地や出店、移住が増える可能性は大いにある。
 T&Gで目指すまちの姿は下図。一つの課題を、スポット的に対処するのではなく、広く捉えて新たな仕組みを構築し、解決へと導く。このため、建物を建てたり補助金・助成金を配ったりするなどの施策と違って、市民にとっては取り組みの内容を実感しにくいのが現状。
 しかし、今は広島大学内で実証実験している電気自動車(EV)カーシェアリングもいつか地域で使用できる日がくるだろう。そうなったまちの姿を想像するとわくわくする。(橋本)

Town&Gown構想が目指すまち


TGOの取り組みの特徴

【広島大学】
 さまざまな課題の解決に向けて、新技術の社会実装を目指し、大学内で 実証実験を実施。企業とまちづくりを進める仕組みづくりにも取り組んでいる。

【近畿大学】
 ドローンによるため池自動点検システムの構築に向けた研究や空き家 DIYによる交流スペースづくりなど、企業や学生を巻き込んだ取り組 みを展開している。

【広島国際大学】
 市と大学が共同設置する「東広島健幸ステーション」を拠点に、地元企 業・団体と連携し、地域の健康増進や健康寿命の延伸を目指したさまざまな取り組みを展開している。

※広報東広島令和7年1月号より抜粋


課題

 大きな課題は、読者アンケートでも分かるように市民へのPR不足だ。高垣広徳市長も「類似例がない、新しい分野の取り組み。市民にT&Gの必要性を理解してもらうようPRの努力をしていきたい」と話す。男性市民の一人は「何をしているのか分かりづらい。分からないから興味も持てない」との言葉が現実を物語る。
 T&Gは、民間企業の持つノウハウと資源を、まちづくりに生かすための実証研究に取り組む「広島大スマートシティ共創コンソーシアム」(次項参照)や、市の地域課題を、市内の3大学の知見を生かして解決を図る「COMMON(コモン)プロジェクト」を柱に、各分野での取り組みを進めている。
 ただ、取り組みは緒に就いたばかり。ある市議は「さまざまな取り組みをひとくくりにして議論するから、T&Gを一層分かりにくいものにしている」としたうえで、「何か一つ、成功事例をつくることが、市民の関心と理解を深める第一歩」と力を込める。
 東広島市議(30人)の間で、T&Gに温度差があるのも課題だ。市議の話をまとめると、T&Gの推進に積極的な議員は10人にも満たない、という。一般質問でも、T&Gの成果や是非を取り上げられることが多い。ある市議は「T&Gが東広島に必要なのか。取り組みの未来が想像できないから、賛成も反対もし難い」と本音を漏らす。
 T&Gに投じた事業費は2021年度~23年度の決算ベースで約8億6000万円。多くは国の交付金や企業版ふるさと納税の活用で市の一般財源からの持ち出しは少ないが、市民には「同じ税金を使うのなら、理想よりも現実に目を向けて。遅れている生活道路の充実など、暮らしに直結する分野に力を入れてほしい」という声が多いのも事実だ。(日川)



実証実験例

民間企業の持つノウハウをまちづくりに生かすため、市と広島大学、企業が協力して「広島大学共創コンソーシアム」を2022年設立、地域での実用化を目指し実証実験に取り組んでいる。

■EVカーシェアリング
 広島大の東広島キャンパス内で、学生や教職員がEV(電気自動車)を気軽に使える機会を提供している。

EVカーシェアリング

■EVを活用したエネルギーマネジメント
 広島大の東広島キャンパス内の建物・駐車場に太陽光発電設備を導入。発電した電力でキャンパス内の電力の一部を賄うほか、EVのシェアサービスにも活用。

■TGOアプリ
 学生生活を便利にするためのサポートツール。昨年12月末現在のアプリ登録者数は8485人、コンテンツ総閲覧数は2万6910PV。予算額は約1億3000万円。

TGOアプリ


TGOアプリで関係者の声

TGOアプリで関係者の声

(一部抜粋。詳しくは2月20日号ザ・プレスで)

◎Google アプリのDL数 1,000~5,000。
 iPhone アプリのDL数 不明。
 現状では「広大生を対象に、学内外の情報を提供するアプリ」になるが、これだとWebで十分でありアプリを入れる必要性がない。

◎LINEやChatツールが大量にある中でTGOアプリ上でやる必然性がない。
 公的機関のアプリの場合、何をもって成功とするか?という定義が難しい。

◎役所の方々は、スマホの利用時間を割いてもらうことの難しさを理解していないのだろうと思います。
 利用時間という意味で、LINEとInstagramとの戦いになります。そこに競り勝たないとみんなが使うアプリにはなり得ないんです。



参画企業(順不同)

■住友商事
■フジタ
■ソフトバンク
■三井住友信託銀行
■中国電力
■マイクロンメモリジャパン
■復建調査設計
■ダイキン工業
■サタケ
■日産自動車
■イズミ
■葵会
■ミサワ環境技術
■大日本印刷
■広島ガス
■Hakobune
■住友電気工業
■ヤマネホールディングス

※24年12月現在

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プレスネット編集部

広島県東広島市に密着した情報を発信するフリーペーパー「ザ・ウィークリープレスネット」の編集部。

東広島の行事やイベント、グルメなどジャンルを問わず取材し、週刊で情報を届ける。

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