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(SAT)

第4回 「老スカウトの執念の追跡徹底マークの〝刑事コロンボ〟」

  • 2023/08/02

マエケン獲得に尽力 元スカウト 宮本洋二郎さん

 残留かメジャーか。日本を代表するエース前田の身辺が日増しに騒がしくなっている。ポスティングによる金額は20数億円にハネ上がっていると聞く。メジャー球団のほとんどが入札してくるに違いない。果たしてカープ球団が前田の長年の希望を受け入れるのか?

 ファンとしても残留を強く求めるところだが。

 話は少々さかのぼる。06年のドラフト会議で「マエケン」を見事単独1位指名に成功した一人の老スカウトを紹介する。元広島の投手で宮本洋二郎さん(73)。

 高校は鳥取の米子東。夏の甲子園では、〝快腕投手〟として注目され、早稲田では六大学リーグで活躍した。巨人に入団後、広島に移籍してコーチも経験した。スカウトに転身すると、小マメに全国の高校、大学、社会人と歩き回った。途中から関西地区担当となり、前田が高校1年の時に巡り合う。

 「その年(06年)の4月のスカウト会議で私はマエケンを強く推して、全員一致で1位指名が決まった」宮本スカウトは責任の重さに「身が引き締まる思いでした」と当時語った事があった。

 強豪PL学園で1年夏からベンチ入り。当然他球団も1位候補に挙げてマークしていた。宮本スカウトは大阪の自宅近くの神社に日参しては祈願した。「リストした他の選手はパスしてマエケンだけに集中した。他球団のスカウトよりも早くグラウンドに通い、各スカウトの帰るのを見届けて最後までいましたね」。真夏の暑い日もネクタイ着用に背広姿、寒い時は「かなり汚れたでしょう(苦笑)」と愛用のコートを羽織り「まるで刑事コロンボ気分でしたな」と執念の追跡を続けた。万博球場での練習で両親を見つけたのも一番先だった。応援席で帽子のツバに「マエダ」と書いた名前が目にとび込んで来たという。以来、母親の幸代さんと会話を交わしながら、宮本流の徹底したマークが始まった。「お母さんは息子がエースでバリバリの選手だというのに、保護者の間では一生懸命世話をしておられた」家庭環境の良さも一目で分かった。

 06年オフのドラフト会議の前日まで、老スカウトは各球団のマエケンの情報収集に走り回った。「単独指名でいけそうだ」と当日のドラフト会議での祈る思いが現実になった。

 「あの時の感謝は一生忘れませんよ」。宮本さんは3年前広島球団を退職。現在名古屋のある大学でコーチとして情熱を注いでいる。「選手たちには、時にはマエケンの野球への取り組み方、考え方を聞かせています」

 いま宮本さんは、残留かメジャーか、揺れる前田の心を思いながら、どこまでも「わが子のように応援しますよ」と今後のさらなる飛躍を楽しみにしていた。


プレスネット2015年11月28日号掲載

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